「膵臓がんと糖尿病、膵のう胞」
中井陽介医師
日本では最近では2人に1人が、がんにかかる時代になっています。その中でも近年増えている膵臓がんは、いろいろながんの中でも特に予後が悪い難治がんの代表で、日本でがんで亡くなる方の原因の第4位になっています。がんの治療の目安として用いられることが多い5年生存率も、いまだに10%未満と他のがんと比較しても非常に低い数字となっています。膵臓がんの治療が難しい理由はいくつかあります。一つは、膵臓がおなかの深いところにあるため検査が難しいこと、膵臓のまわりには大きな血管があり腫瘍が小さくても手術ができないこともあります。また高危険群と言われる膵臓がんにかかりやすい人がはっきりしてないことも早期の診断、治療を難しくしています。例えば胃がんではピロリ菌が危険因子であることや内視鏡検査が広く行われていることから、最近では早期に診断され、内視鏡治療で治る胃がんも多くなっています。
膵臓がんの危険因子はひとつではなく、以下のようなものがあります。
図1 膵癌診療ガイドライン 2019年版より改
危険因子の中でも膵のう胞や糖尿病に近年注目が集まっています。膵のう胞、特に膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と呼ばれる腫瘍は、膵臓がんの危険因子として以前から注目されておりましたが、最近の研究でも診断された初期だけでなく、5年以上の長期にわたって膵臓がんのリスクがありことがわかっており、定期的に検査を受けていただく必要があります。一方でMRI検査を用いた人間ドックでは膵のう胞の頻度は13.7%と珍しいものではなく、年齢とともに増加し、65歳を超えると20%以上になることが知られています。また糖尿病や肥満があると膵のう胞の頻度が高くなることも分かっています。
図2 Mizuno S, Nakai Yら Pancreas. 2017;46(6):801-805.より改
図3 Mizuno S, Nakai Yら Pancreas. 2017;46(6):801-805.より改
糖尿病は、膵のう胞だけでなく、膵臓がんと密接に関連していることが知られています。糖尿病自体が膵臓がんの危険因子でもありますが、膵臓がん自体が糖尿病を起こすあるいは悪化させることも知られています。糖尿病の患者さんで、急に血糖のコントロールが悪くなる、あるいは体重が急に減ったなどの症状がある場合には膵臓がんが隠れている可能性もありますので、特に注意が必要です。
図4 Mizuno S, Nakai Yら J Gastroenterol. 2013;48:238-46.より改
膵臓がんは腹痛や背部痛、消化不良、体重減少などの症状を起こしますが、特徴的な症状はありません。また症状が出てから発見されると、残念ながら早期がんでないことも少なくありません。最近では抗がん剤治療も発展してきており、手術が難しい、できないとされた膵臓がんが抗がん剤治療で手術できるようになることも時にはありますが、やはり症状が出る前に早期の状態で診断することが、治る膵臓がんを増やしていくためには重要です。糖尿病、肥満や膵のう胞などの危険因子持っている方やご家族に膵臓がんが多い方などは、膵臓のチェックをお勧めします。
中井陽介医師