ドクターズコラム

「ピロリ菌除菌後も気をつけなければいけない胃がんがある」 
山下裕玄医師

最新のがん統計を参照すると胃癌の罹患者数は年々増加しており、2013年では13万人を超えております。
一方で、胃癌による死亡患者数は2010年までは5万人を超えておりましたが、その後は漸減し2015年では46679人となりました。罹患患者数が増えていながら死亡数が減ってきている事実は、治る胃癌が増えてきていると解釈できると思います。治る胃癌の大部分は早期胃がんです。海外では、日本のような胃癌検診が発達していない国がほとんどで、早期で発見される胃がんはとても少なく、結果としてほとんどが症状を有する進行がんで発見されます。結果として全体の治療成績も良くありません。

図 図

図1 胃癌罹患者数(年齢別推移)

ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は言わずと知れた胃癌の原因の一つです。ピロリ菌の感染によって慢性的に胃炎が生じ、徐々に胃粘膜が萎縮していき胃酸分泌が減ってきます。萎縮が高度になってくると、腸上皮化生という変化が起きてきます。ここまで萎縮が進んでしまった患者さんでは胃癌が見つかる頻度が高く、定期的な内視鏡検診が強く勧められます。

さて、戦前生まれの世代では8割近かったヘリコバクター・ピロリ感染率は近年10%を下回って推移しています。近い将来、日本人の大多数がピロリ菌感染のない状態となり、結果的に胃癌患者数が減少してくると予測されています。ここ10年くらいの胃癌罹患者数の推移を年齢別に見てみました(図1)ピロリ菌感染率の低い世代の胃癌患者数は増えておらず、むしろ減少傾向にあることが分かります。60代前半からは減少傾向が見てとれます。逆に、70歳代、それも後半に見つかることは増え続けていることが分かります。ピロリ菌感染率の高い世代に胃癌の発生が多く、この世代が歳を重ねていった結果なのだろうと推測できます。ピロリ菌感染のチェックが大切なことは言うまでもありません。

最近でも、20代、30代でピロリ菌による慢性胃炎を持った患者にしばしば出会います。除菌治療によって慢性胃炎が改善し、胃粘膜の萎縮の進行を抑えることができれば、胃癌の発生も少なくなるだろうと期待するところもあります。ですので、内視鏡による検診は若い頃に一度受けておくと良いと思います。しかし、最近の内視鏡検査ではピロリ菌感染のない患者の方が多いという実感があります。20年後、30年後は今よりももっとピロリ菌感染者が減っているのではないかと想像します。そうなってきますと、胃癌はなかなか見つからない病気になってきますし、内視鏡検査の目的が胃癌の早期発見ではなくなってくるのではないか、という気持ちになってきます。はたして、そういった近未来に、もはや胃カメラはやらなくて良い検査になってしまうのでしょうか?胃がんが減ってくるかわりに、食道胃接合部腺癌という、食道と胃の境界線に存在する癌が増えてくるのではないかと考えています。

実際に、食道胃接合部腺癌に対する手術件数はここ10年間で2.4倍になったといいうわが国での調査報告もあります。ピロリ菌感染がない場合、胃の粘膜の萎縮はなく、胃酸の分泌が保たれています。この場合、胃酸が食道に逆流して食道炎を起こしている患者は比較的多いです。逆流性食道炎によって食道粘膜に亀裂が入り、胃の様な粘膜に変化していくことがあります。バレット上皮と言います。バレット上皮が広範囲になってくると、これを背景に腺癌が発生しやすいということが分かっています。

どの程度のバレット上皮で癌が発生してくるか、正確なところは分かっていませんし、どのくらいの間隔でフォローしていくべきかについても分かっていません。最近、当クリニックで経験した食道胃接合部癌の患者さんもピロリ菌感染はなく、少なくとも胃がんリスクのないピロリ菌未感染の方であってもがんが発生する領域があるということは知っておいた方が良いと思います。既にヘリコバクター・ピロリ感染率が低率となっているアメリカ合衆国では、胃癌患者数は少なく下部食道から食道胃接合部の腺癌が急増しています。この領域のがんは肥満と密接な関係があると言われております。アメリカは肥満率が35%前後と圧倒的に高いので、5%にも満たない我が国とは状況が全く異なります。単純に同様になるとは言い難いのですが、アメリカの現状は我が国の近未来像ではないか?という目で観察しても良いように感じます。

山下裕玄医師

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