ドクターズコラム

「メタボと消化器癌について」 
浅岡良成医師

食生活の変化により日本人でも過体重の人の割合が増え、各種疾患との関連が示唆されるようになっています。メタボリック症候群として、糖尿病や高血圧、高脂血症、それに伴う脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患との関与が注目されますが、肥満によってリスクが増えるのはこれらの疾患のみではありません。多くの消化器癌で発症リスクが上がる事が報告されています。

大腸癌、肝臓癌、一部の食道癌、膵癌のリスクが上がることが知られています。中でも、最近、著名人が膵癌で亡くなったという報道も多く聞かれるようになり、膵癌の恐ろしさを一般の方も感じるようになっていると思います。膵癌に関しては、発見が困難な癌であり、進行した状態でみつかることが多いため治療が困難であるという説明が多いと思います。確かに近年の手術手技の向上、術後の抗癌剤の進歩により、治癒できる症例が少しずつ増えています。しかし切除できた症例でも早期に再発する方が多いのが現状であり、おそらく膵癌自体の生物学的悪性度が高いことが原因と思われます。膵癌の発症に関して、肥満や糖尿病が強く関与していることが報告されています。現状では、肥満を是正することで、まずは病気にならないようにすることが重要と思われます。

肝臓癌に関しては、以前はほとんどがB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスをもった方に発症する病気でした。戦後、輸血による感染で急激に増加した慢性肝炎患者も、輸血のスクリーニングの発達により新規に感染する方はほとんどいなくなり、抗ウイルス薬の進歩により副作用がほとんどなく高い確率で駆除が可能になっています。これらの効果で、ウイルス性肝臓癌症例は目に見えて減少しています。一方で、NASHを中心とした非B非C肝臓癌の症例が著しく増加しています。NASHとはnon-alcoholic steatohepatitis (非アルコール性脂肪性肝炎)で、脂肪肝の人の一部がなると考えられている進行性の病態で肝硬変や肝臓癌を発症させます。

中年男性では、1/3から1/4くらいで脂肪肝を認めますが、どのような人がNASHになるのかは不明です。ウイルス性肝炎に関しては、C型肝炎、B型肝炎症例を採血で拾い上げ、肝硬変まで進展しているような発癌高リスク症例を囲い込み、定期的に検査を行うことで癌を早期発見し、治療することが可能でした。このような戦略はウイルス性肝臓癌の方が長生きすることに大きく寄与しました。しかしNASHの肝硬変から発生する肝臓癌はいつの間にか進行し、症状がでるような大きな病変になってから発見されることも珍しくありません。実は肝硬変にまでなってしまうと採血データの異常が少なく、採血だけでは肝硬変になっていることがわからないことも多いのです。肝硬変になっているかどうかを知るためには、肝臓に針を刺して肝臓の一部の組織を採取してくる生検という検査が必要でした。この検査は出血などを起こすこともある入院が必要な検査です。最近、超音波を利用して肝臓の硬さを簡便に測る機器が登場しています。

脂肪肝といわれたことのある方は、一度、肝硬度の検査を行い、肝臓が硬くなっている方は定期的な超音波検査を行うことがすすめられます。また脂肪肝は標準体重の方にも認める事があります。学生時代に痩せていた方が就職後、運動ができなくなり、10kg以上の体重増加があったような場合は、標準体重でも脂肪肝になっていることがあります。ある遺伝子の多型(遺伝学的な個人差)によって、肝臓に脂肪を蓄えやすい人と、逆に肝臓に蓄えにくいため血管の動脈硬化のほうがよりすすみやすい人がわかれるというような研究結果もでています。遺伝的な要因もNASHの発症に大きく関与していることがわかります。従って、標準体重のかたも肝機能の血液検査のみではなく、肝硬度を含めた超音波検査を一度は行うことをおすすめします。

いずれにしても、膵癌、肝臓癌という発症すると治癒することが難しい癌の発症に肥満やメタボが強く関連することがわかってきています。定期的な検査を行うとともに、まずは適正な食事、運動をこころがけ適正な体組成を維持することが重要です。

浅岡良成医師

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