日本では年齢とともにこのピロリ菌を持っている人が増えていき、40歳以上では約80%の頻度となっています。人から人への経口感染(口から口)が推測されていますが、はっきりしたルートは不明です。ただし、ピロリ菌の感染率は、先進国に比べて、いわゆる発展途上国できわめて高いという調査結果が出ており、上下水道の普及率に比例することから、衛生環境と関わっていることが推察されています。しかし、たとえ感染しても大半は病気にはならず、また生活環境の進歩、生活習慣の変化とともにこの菌を持っている人は減少しています。現在の日本の生活環境では、成人の年間感染率は、1%前後と考えられています。
また、一時期、内視鏡検査を介した感染が問題となっていましたが、消毒方法の改善により感染は少なくなりました。当院では、検査ごとの消毒を内視鏡学会で推薦された方法で厳格に行っております。内視鏡検査が原因で感染した例はありません。
ピロリ菌を発見した、マーシャルらは、自らピロリ菌を飲み、実験を行なった結果、胃炎が起こることを証明しました。急性胃炎の症状としては、胃痛、吐き気、嘔吐などがありますが、知らずして起こった感染による慢性胃炎のほとんどは無症状です。ピロリ菌による慢性胃炎から胃潰瘍や十二指腸潰瘍になることがあります。実際、胃潰瘍では80%、十二指腸潰瘍では90%以上の患者さんにピロリ菌感染があります。
過形成性ポリープといわれる胃にできる良性のポリープや悪性のMALTリンパ腫もピロリ菌によって起こります。ピロリ菌を駆除することによって、潰瘍や胃炎が治り、過形成性ポリープやMALTリンパ腫の消失が確認されています。
ピロリ菌に感染したすべての人に慢性活動性胃炎を起こることが証明されており、ピロリ菌を除菌することにより胃炎が治ることも分かっています。
またピロリ菌に感染している人は未感染者に比べて20倍以上「胃がん」になりやすいことが分かっています。日本は先進諸国でありながら発展途上国並みに胃がんの罹患率が高い国ですが、その原因はここにあります。一方,ピロリ菌が除菌されると発がん率は約1/3程度にまで減少しますので、ピロリ菌の除菌は胃がんの予防にも極めて有効であると言えます。
ピロリ菌によって起こる慢性胃炎の終焉は、萎縮性胃炎や腸上皮化生という胃がんの起こりやすい状態の胃炎です。1994年にピロリ菌は発がん性グループ1(確実な発がん因子)と認定されています。ただし、ピロリ菌に感染してから、慢性胃炎→萎縮性胃炎→腸上皮化生へと進むまでに30年程度かかるといわれていますので、最終的に胃がんが発生するまでに何十年もかかり、ほとんどの人は胃がん発生に到らず一生を終えます。
胃潰瘍や胃炎にかかった患者さんを追跡調査したところ、ピロリ菌感染者だけに胃がんが発生し、感染していなかったひとは胃がんにはならなかったとの結果がでました。ピロリ菌に感染しているすべての人が胃がんになるのではありませんし、ピロリ菌以外にも胃がんの発生を促す危険因子があります。しかし、ピロリ菌に感染していない人には胃がんは起こらないことから、ピロリ菌による慢性胃炎は胃がんが起こるための必須要因と考えられます。
内視鏡を用いる検査と、内視鏡を用いない検査があります。いずれも日本ヘリコバクター学会のガイドラインで採用されている診断法です。
従来、十二指腸潰瘍、胃潰瘍瘢痕、十二指腸潰瘍瘢痕等(他に、胃マルトリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、 早期胃癌の内視鏡治療後胃)の方のみ、ピロリ菌検査・除菌治療が保険適応となっていましたが、 平成25年2月22日より、ピロリ菌陽性の場合は慢性胃炎等、潰瘍がなくてもピロリ菌除菌治療が保険診療で実施できるようになりました。
抗生剤2剤とプロトンポンプ阻害剤(酸分泌抑制剤)の計3剤を併用します。最近ではそれらが全てまとめられてパック製剤になっているものがあります。 1週間、それらの薬剤を飲むことによる除菌率は80%と報告されています。 除菌の成功率は個人差があります。除菌が成功すると、その後は潰瘍のあった方は潰瘍治療薬を飲む必要がなくなるなど症状の改善が期待でき、再発もほとんどありません。
除菌治療は、発疹、腹痛や下痢などの副作用が強く発生することがなければ、1週間はしっかりと継続して行ってください。途中で内服を止めると、ピロリ菌が薬に対して耐性をもつことがあり、残った菌を次の機会に除菌しようと思っても薬が効かなくなるおそれがあります。
当院では除菌後3ヶ月から1年後に、原則として内視鏡検査を実施しピロリ菌の除菌ができているか確認します。 再検査でピロリ菌が残っていることが確認された場合は追加除菌(2次除菌)を行うことができます。除菌判定を実施する時期は、個々の患者様の状態によって異なります。除菌が成功したか否かに関して早期に確認を希望される方は、医師にご相談ください。
また、この治療の副作用として、下痢や軟便傾向が4割ほどの方に出現します。必要に応じて抗生剤に対する耐性を持つ整腸剤を同時に服用していただくことがあります。元来、軟便傾向にある方はご相談ください。
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